その四八三

 

 




 







 









































































 

沈黙の 銀河がひとり 匂いを放つ

 宇宙飛行士として地球をみてきたひとりの学者が「銀河はラズベリーの香り」っていうセリフを吐いていて。
 なんか字幕を見たとたんにわけもなくいいなって思ってそれからずっと気になっている。
 そのことばを受けて弟子だったひとりの数学者が「あぁギ酸エチルだね」というのだけれど。
 ますますわからなくなるところが、面白くて。
 
 知らないままがいいのかどうしようって思ったけれど、検索機能が青く誘っていたので調べてみた。
 
ドイツの天文学研究所は、「天の川、銀河の中心部に近い分子雲<いて座B2>内にギ酸エチルという分子が存在することを発見したそうで、ラズベリー風味を引き出してラム酒の香りがする」と記されている。
 こうして調べてみると、いろいろ知る前の「銀河はラズベリーの香り」だけのほうに、惹かれていたことに気づく。

 あともうひとつ。ステファン・グラビンスキの『狂気の巡礼』という作品のなかで出てきた文章。

<惑星から始めて、様々な個人や出来事の人生の経過を細長い楕円として図形で示してやると、所与の個人は数学的な点が回るような方法で回った>
 
途中までわかった気になっていたのに、さいごのくだりになると、とつぜん十字路で迷ったような気分になった。
 わからないってほんとうに孤独だけれど、かんたんに救われたりしない風通しのよさも、言葉にはあることを知る。つかまえたとおもったことばのしっぽが、するすると掌のなかからこぼれてけむりになってゆくような、そんな文章に出会うととまどいながらも、じっくりとすきになってゆくような気がする。
 いまあたまのなかはぐるぐるをとおりこしてなにかを、とりこぼしながらまわっているような感じに取り囲まれている。

       
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