その四九〇

 

 






 






 












































































 

つかのまを 生き延びていた 鳥を想って

 冬の手袋を洗った。
ブルーカナールっていう色だと教えてくれた人がいて。カナールはフランス語で鴨の意味らしく。
 ぱっとみは深緑のようで、そこに青も混じりあっているようなそんな色合い。
 雪でも降りそうな空模様の時、なんとなく口のなかでぶるーかなーると遊ばせながら、凍えそうな指を幾度か守ってもらった。
 鴨は冬の季語でもあるし、なんとなく思い出してはその色の名前を教えてくれたひとのことも同時に思い出したりしていた。

 色の名前は遠くに思いを馳せるまなざしみたいにふしぎな音を纏ってる。
 忘れそうになって忘れないように、なんどもくちずさむように覚えていようとしたりして、すこしだけ、ほかの名称よりも気持ちを注ぎたくなる。

 でもなんどもくりかえしてるうちに、ふいになにかちがうものへと変化してるように感じることがあって。
 もともとの意味はどこかへ飛んでいってしまって、ただの音として存在しているような。
 そんなことを思っていたある日、アメリカの作曲家、スティーブ・ライヒがインタビューに答えている言葉をみつけた。

「同じ言葉を繰り返し聞いていると、おのずと旋律の形を成してくる。肉体の奥底から洗練とは無縁の土俗的なリズムも湧き上がってくる」

 ブルーカナールも意味を聞いた時はとても、美しい鴨の姿を想像したけれど。それを繰り返しているうちに、空気になんども触れてゆきながら、いい感じに酸化してるようなそんな響きに変化している感じがする。
 もともとあるべきだった場所にもどってゆくそんなぼんやりとした輪郭が、浮かんだり消えそうになったりしながら。

       
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