その五〇六

 

 






 







 
























































































 

おもむろに 語りはじめる 黄昏を待つ

 無造作に麻ひもでくくられたアケビのような花束のイラストのページにでくわして。
 7本の束が淡紫色がグラデーションで描かれていて。その下にはキャプションのように、詩が綴られている。詩は英語で、とても気持ちよく綴られている手書きの文字だ。
 文字のレイアウトもきもちよく絵のまわりを彩られて、すこし気をよくしていたら。
 
『壊れたもの、壊れていないもの』というタイトルがみえる。
<あなたに言わなくちゃいけないことがあるわ>
っていうことばからはじまる。
 訳されたことばを読んですこしたじろぐ。
 むかしも読んだはずなのに、うっかり忘れていて。そんなことがここに書いてあったんだってあらためて、記憶を辿ろうとするけれど、ほとんど覚えていなかった。
 こうやって誰かになにかを言われる時って、それが詩のことばであっても、身構えてしまう。
 
あなたという宛先は、いつもわたしとは限らないはずなのに。誰かに叱られていたちいさな頃のすこし影にふちどられた記憶がよみがえるからかもしれない。

 その詩は<暗く細い>夢について述べられて、でもそれが救いのないことではなくて。それでも今、<不安と喜びを同時に感じる>と告げる。
 そしてさいごに。
<それが生きるってことの真実じゃないかしら>
と、括られる。
そこまで読み終えてわたしは、もういちどアケビに似たイラストをみる。
 作者はもしかしたら、あなたは読者のあなたではなくて。この7本の淡紫色の束に語り掛けているのかもしれないなって、思って。
 わけもなく、叱られそうなのにそうじゃなかった時みたいに、平穏な気持ちを味わっていた。

       
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