その六四八

 

 






 






 







 

どこからか だれかの想い 旅の途中は

「これらの頁は地図を広げながら魅力的な
場所を語り合うことに等しいモチーフと
なる。それはもう一つの別の視点を手に
入れて、未知の物語と出会うことでもあっ
た。その先で誰かと出会うかもしれない
ときめき、その叶えられない人生に身を
傾けていくための第一章。」

SWITCHの編集長新井敏記さんの言葉。

かなり昔の雑誌なのに、今読んでもざらついて
いた気持ちが研磨されてなめらかになってゆく
のがわかる。

インタビュー記事が面白くて、夢中になった。
ことばが生の言葉に聞こえる。
わたしと同じ道のどこかに立って暮している人の声に
聞こえる。

会うことのない世界のひとであっても、
おなじひとりの人として言葉が
届いてくるのがわかる、もういちど、ページを開いて
みる。

よしもとばななさんの「ともちゃんの幸せ」を
読んでみた。

ともちゃんはかなり悲しい出来事の体験者。
そして家族を失った経験も綴られていた。

「いずれにしても、神様は何もしてくれやしない。
でも、それは神と呼ぶにはあまりにちっぽけな力
しかもたないまなざしが、いつでもともちゃんを
見ていた。熱い情けも涙も応援もなかったが、
ただ透明にともちゃんを見て、ともちゃんが何か
大切なものをこつこつと貯金していくのをじっと
見ていた」『ともちゃんの幸せ』よしもとばなな

いちど読んだはずの物語もしばらくして
出会うと、未知の出会いのような気がしてくる。
引用したこの文章の事をすっかりわたしは忘れていた。

多分その時はスルーしたのかもしれない。目を伏せた
かったのかもしれない。無常に聞こえたのかも
しれないし。でも今は初めて出会った気分で
読んでいる。

そして大切なものはこつこつとじぶんの中で貯めて
いけばいいのだと、もういちどそこを繰り返し読んだ。

あれからずいぶん時間が経ってともちゃんほどでは
なくとも、わたしもいろいろなちいさな経験を積み
重ねたからかもしれない。

違う世界が広がってる。新しい視点でなにかを手に
入れることこそが旅なのかもしれないと、編集長の
新井敏記さんは仰る。

そんな大切な想いで作ったページをいつもわたしは
開くことを楽しみにしていたのだとあらためて思った。
旅は、ここではないどこかへと思うその心が宿った時に
もう始まっているのかもしれない。

 



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