その六七一

 

 





 





 






 

平和という 言葉の中に 戦争がいる

平和という言葉を聞くと「戦争」をいやが上でも
思い出す。

それは白と黒、罪と罰のようにいつもツインだ。

平和と幸福は似ているのかもしれない。

その輪郭はひとそれぞれの思いの欠片で形作られて
いるのに。

どこかにたしかな「平和」があるかのように
感じている幻想めいたところが似ている。

なくなればいい。

去年の夏。

味方という言葉は「敵をかんじさせるから
好きじゃない」ってカフェの隣の席から
声がきこえて来たことがあった。

「平和」という言葉はなくなればいいと栞は
どこかで真剣に思っていた。

平和という言葉が存在するということはまぎれも
なく「戦争」も存在しているという意味だから。

どこかの誰かに殴られるかもしれないけれど。

「平和」ということばよ、今世紀中になくなれと
つぶやいた。

まどの外では蝉が鳴いていた。重唱していた。

蝉の寿命はもっと長いんだってよって友人が
教えてくれたことがあった。

七日じゃないらしいよって。

そか、それはよかったね、とりあえずよかったねって
わらった。

生きているとしんどいことばかりなのに、自分以外の
ものには生きてくれと思う。

彼はわたしのわらいを聞いて蝉のいのちをわらっちゃ
いかんって言いたげだった。

そして彼が思っていたよりも真守の寿命が短かった
ことは、世の中おかしいよひとつだと今も
真剣に思っている。

窓の外には育ちすぎた入道雲がミルフィーユのように
重なり合っていた。

平和という言葉がなくなればいいために、しなければ
いけないことがなになのかまだわからない。

窓の外からの風が一瞬冷たくなったような気がした。

雨が降るかもしれないなって空を見上げた。

真守くん、そっちの世界には「平和」ってありますか?

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