その六九二

 

 






 







 





 

今おぼえた 花の名前を 心に刻んで

大切な身近な人が記憶を失って
いったとしたらどうするだろう。
そんなことを少し考えてしまうような
今年の幕開けだった。

わたしは比較的記憶がいいほうだと
思っているけれど、それはじぶんの
特技だとは思っていない。

記憶の中には思い出したくないことも
多々あるし。

忘れてしまったほうが身のためのことも
たくさんあるから。

記憶にすがらないように生きていきたいと
思っている。

でも身近な人の記憶の掛け違いには
なかなか穏やかではいられない。

瞬間的に心無い言葉ばかりを放って
しまうこともたびたびで

そういう時自分を否定したくなった。
無理やりにでも、明るい話にシフト
チェンジして切り抜けた。

たったひとつの守らなければいけない
日常のことに対してだけ、彼女は
はき違える。

そのこととずっと付き合いながらも。
わたしはかなり疲弊していた。

たったひとつのことを失った記憶のまま
いる彼女のことを受け止めかねていた。

でも考えてみたら、その失った記憶は
わたしと彼女にとってほんとうに

どうでもいいことで。
できたらやらなくてもいいんじゃないか
っていうぐらいのことだから。

大阪に住んでいた小さい頃となりに住む
青年たちに少し甘えて靴紐を結ばせようと
したり。

おはようは欠かさず彼らに言ってから、
友達と遊んでいたことなどを教えて
くれた。

わたしは気持ちを切り替えた。
失くした記憶を追いかけて、心痛めるよりも
覚えている記憶をふたりで共有していけば
いいのだと。

TOP