その六九九

 

 











 





 

輪郭が 消え入りそうな あなたをみてる

夜おそくに目が覚めて
がばりと起きて
カーテンをめくると
霧がでていた。

向いの家の屋根や電線が
すこし遠くにみえる
隣町の緑色の六角屋根もぜんぜん
視界のなかにみつからない。

降りすぎた雨がどうしようもなくなって
しらない時間にこっそり
霧になっていたんだと思うと
すこしだけ昂揚した。

いつか信州を旅行していたときに朝霧を
みたときは、とても不安に駆られた。

ひとりひとりの顔や体のりんかくが
消え入りそうで、なんだかその場所に
ひとり残された気がしたのだ。

白樺の木立がつらなっていた高原が
あたりを白くぜんぶを隠してしまう。

とつぜんわたしを呼ぶ声だけが
聞こえてきて
一瞬の心許なさが洗い流されて
あぁそこにちゃんとみんな存在
しているんだと
安堵したことを思いだした。

今は霧に出会ったぐらいでは
ふあんになったりしない。

家並みを、空のさかいめを、電柱を
しらない人の住むガレージを
マンションを、アスファルトを
包み込む夜霧にちょっとだけ
そそのかされそうになっていた。

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