その三四九 からっぽの かばんのなかに 未来をいれて 一月八日 その三五〇 うずまきの 指ゆくりなく 宙をなぞって 一月十六日 その三五一 夕まぐれ 壜のうつろに 放った名前 一月二十八日 その三五二 はりつめた 糸がぷちんと 切れてゆるんで 二月九日 その三五三 おもむろに かれを打つねこ 足音消して 二月十七日 その三五四 いりぐちが でぐちになるゆめ 云えないままで 三月六日 その三五五 りんかくの とりとめもない みずのからだは 三月二十一日 その三五六 道すがら 通りすがりの 陰ふんでいる 三月三十日 その三五七 飛んでいる 夢を見た日は 雨が降るでしょう 四月五日 その三五八 しちしちが しゃがんで待った ありあけの月 四月十二日 その 三五九 蝋燭の ひかりが揺れる ためらうように 四月二十三日 その 三六〇 つまさきの ほうこうだけは うそをつかない 五月六日 その 三六一 どこかしら たそがれている からだのどこか 五月二十日 その 三六二 鳴っている でんわの音が 五月雨のよう 六月七日 その三六三 たどっても たどりつけない 線路の果ては 六月二十三日 その三六四 手を放す 風船の行方が 粒子になるまで 七月四日 その三六五 バス通り どろんどろんと ダチュラがゆれる 七月十六日 その三六六 夕まぐれ 少し遅れて あやまちが降る 八月五日 その三六七 一葉の 古い写真が 逃げてゆく夏 八月二十二日 その三六八 すぺくとる 夏の抜け殻 かたわらに置く 九月五日 その三六九 ゆきずりの 蝶が舞う空 視線で追えば 九月二十一日 その三七〇 車窓から 見かけた富士は 幻に似て 十月七日 その三七一 フラミンゴ 息吹にふれて ゆきばがなくて 十月十八日 その三七二 夜もすがら なぎさ漕いでる もみぢばのふね 十月二十六日 その三七三 おちてゆく 獣のゆびと ふれたトンネル 十一月七日 その三七四 ふりあげた 拳のなかに ひとつぶの種 十二月三日 その三七五 ゆめのなか ゆめのいいなり 黒雲のした 十二月十二日 その三七六 釣り糸が 川の水面で ほのかに屈折 十二月二十日
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